多くの人びとにとって、決して忘れることの出来ない日となった2011年3月11日。大震災という強烈な体験を経た方々に心を寄せ、春のお彼岸にこの東北記録映画三部作全4編を連続上映しました。
酒井・濱口両監督に加えて、小説『想像ラジオ』で聞こえるはずのない声を通して東日本大震災を語ったいとうせいこう氏、東北の寺院との縁を結び、地方と東京の新たな関係を模索する東長寺住職・瀧澤遥風師、『うたうひと』の重要な登場人物でもある小野和子氏を迎え、P3代表で本作品共同プロデューサーの芹沢高志が聞き手となり、それぞれの立場からのお話を伺いました。
 
『なみのおと』『なみのこえ 気仙沼編/新地町編』『うたうひと』は、酒井・濱口両監督が東日本大震災の被災地で、2年の歳月をかけて丁寧につくりあげた映画作品です。
被災の風景はほとんど現れません。前2作では家族、友人、同僚など、親しい間柄の人たちが、あらためてそれぞれの相手と向き合い、話を交わす。そうすることで自身の体験が、語っている現在に引き寄せられて、親しい他者と時空間を共有していく。さらには、歳月を経て見ている観客とも共鳴を起こしていくようにも思えます。最終編となる『うたうひと』では、みやぎ民話の会、小野和子氏の活動を追い、語り継がれる物語とそれを聞き繋いでいく人びとの呼応を感じることでしょう。語る者と聞く者、その相互作用がそれを聞く私たちのもとへと送り届けられて、私たちは、誰にどうやってそれを引き渡していくのでしょうか。

日時:2015年3月20日~22日
会場:P3 art and environment/P3 Project Space 
ゲスト:酒井耕(20日~22日)、濱口竜介(20日・21日)、いとうせいこう(20日)、瀧澤遥風(21日)、小野和子(22日)
主催:東長寺
制作:P3 art and environment
協力:silent voice


第一部『なみのおと
津波被害を受けた三陸沿岸部に暮らす人々の「対話」を撮り続けたドキュメンタリー映像。
友人、家族、仕事仲間など親しいもの同士が震災について語り合う口承記録の形がとられている。
互いに向き合い対話する事は震災そのものに向き合うことでもあるのかもしれない。被災地の悲惨な映像ではなく、対話から生成される人々の「感情」を映像に残すことで、後世に震災の記憶を伝える。
被災地の悲惨な映像ではなく、対話から生成される人々の「感情」を映した本作の上映後、小説『想像ラジオ』で思いもよらない方法で死者の声を私たちにつなぎ、心を使って耳を澄まして対話することの可能性を示した、いとうせいこう氏をお迎えして酒井・濱口両監督が対話しました。

日時:3月20日 『なみのおと』上映
トーク:酒井耕×濱口竜介×いとうせいこう、
聞き手:芹沢高志


第二部『なみのこえ
『なみのおと』から一年。新地町と気仙沼で記録された、現実にそこに生きる「一人ひとり」の声。百年後、私たちは死者であり、この映画は「死者の声」になっているだろう。ここに収められた彼らの声と、今は聞く事のできない波に消えた声が、百年後の未来で繋がっていることを祈って、この映画『なみのこえ』は撮られている。『なみのこえ 新地町』『なみのこえ 気仙沼』の二編構成。
上映後のゲストには、気仙沼の寺院と縁を結び僧侶の立場から東北の復興を考える萬亀山東長寺の若き住職、瀧澤遥風師をお迎えしました。

日時:3月21日 『なみのこえ 新地町』『なみのこえ 気仙沼』上映
トーク:酒井耕×濱口竜介×東長寺住職 瀧澤遥風、
聞き手:芹沢高志


第三部『うたうひと
人から人へと口伝えで受け継がれてきた民話を物語るひとびと。「聞き手」がいることで語りに命が吹き込まれていく独特の場の雰囲気が、 創造的なカメラワークによって記録されている。背景となる人々の暮らしと共に先祖たちの声が甦る。
上映前には、映画に登場する「みやぎ民話の会」小野和子氏による「わたしが出会った民話の語り手たち」と題した講演を行い、『うたうひと』には登場しない語り手たちのエピソードを通して「民話」のもつ魅力をお話しいただきました。
上映後のトークにはやはり小野和子氏にご登壇いただき、「みやぎ民話の会」の記録を継続している酒井耕監督と芹沢高志との鼎談を行いました。

日時:3月22日 小野和子講演「わたしが出会った民話の語り手たち」、『うたうひと』上映
トーク:酒井耕×小野和子×芹沢高志