R.バックミンスター・フラー(1895-1982)は20世紀最大の知的巨人に数えられ、その活動は数学、物理学、建築、エンジニアリング、環境デザイン、哲学、政治思想、教育、詩と幅広い分野に及んでいます。マーシャル・マクルーハンは彼を「私たちの時代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と呼び、作曲家ジョン・ケージは「われわれは、バックミンスター・フラーの時代に生きた人々として記憶されることになるだろう」と書きました。
1920年代に構想された革命的住居デザイン「ダイマクション・ハウス」、T型フォードの時代に驚くべき走行特性を実現した流線型の三輪自動車「ダイマクション・カー」、現在のユニットバスの原形となった「ダイマクション・バスルーム」、私たちの地球像を視覚的にも矯正した「ダイマクション・マップ」、そして今や赤道から両極まで、文字通り世界中に建てられている「ジオデシック・ドーム」……。彼の88年間の生涯はエキサイティングな発明に満ちていました。
彼の発明は工学的なものに限られません。三角形や四面体が飛び交う独創的な数学「シナジェティックス」や「宇宙船地球号」といった概念、さらには地球的問題をみんなで解決するための手法「ワールド・ゲーム」など、その目には見えない発明品も同様に驚くべきものでした。
フラーの様々な発明の裏には、彼が半世紀も前から語り続けた魅力的な宇宙哲学があり、ひとりの人間がもつ無限の可能性とイマジネーションを信じて近視眼的国家主義を厳しく批判し続けました。本当の「地球人」だったといえるフラーは今も刺激的です。
P3 alternative museum, Tokyoのオープニング企画である本展は、BFI(ロサンゼルス)の全面協力のもとに開催され、日本初の総合的なフラー展となりました。フラーの発明品を紹介するにとどまらず、彼の発想の原風景-直観の海をそのまま提示しようと試みました。フラーが最晩年、自分の全思索を童話仕立てにまとめた、一辺91センチの三角形石版画21葉からなるアートブック「テトラスクロール」、直径3メートルのジオデシック球を始めとする様々な構造モデルやオブジェ群、ダイマクション・マップ、フラー・インスティテュート所蔵の貴重な映像フィルムなどがフラーのイメージの洪水を作り出しました。また会場内に常設した作業場では、本展の企画から参加した村井啓哲がジオデシック・モデルなどを製作し続け、訪れた観客は村井と語らいながら直接フラーの思考モデルの製作に参加。ジオデシック構造を持つ自然の造形物なども次々と持ち込まれ、質実ともに進化する展覧会となりました。
会期中のレクチャー、ワークショップなどの催しは15回以上、そのほか土・日曜、祝日にはギャラリーツアーが行われました。また、ラッセル・シュワイカートら宇宙飛行士へのインタビューの場としても利用されるなど、各界の注目を集めました。
会期中にメディアアーティストのインゴ・ギュンターが訪れ、翌年に彼の個展を開くことが決定、急遽サブギャラリーで地球儀を使った作品「ワールド・プロセッサー」のプレ展示を行いました。
会期:1989年4月25日〜8月5日
会場:P3 Alternative Museum, Tokyo
主催:P3 Alternative Museum, Tokyo
協力:バックミンスター・フラー・インスティテュート(BFI)
展示制作:村井啓哲
映像:株式会社イエロー・ツー・カンパニー、菊池滋、長尾範子、甫出雅乙、主藤芳邦、小松理文、田中美佳、ビデオ・ステーション・グロウ、石川聡、竹内宏仁
照明:株式会社クリエイティブ・アート・スィンク、中村公一
ワークショップ協力:リン・ジェニングス、高橋貴子
オープニングパーティー
日程:1989年4月21日
ゲスト:ジェイミー・スナイダー、ジャネット・ブラウン(BFI)
トーク
4月26日 ジエイミー・スナイダー(BFI)「祖父バックミンスター・フラー」
4月29日 芹沢高志「ダイマクション・ハウスからドームまで」
5月19日 芹沢高志「ダイマクション・カー」
5月24日 芹沢高志「ダイマクション・マップ」
6月03日 芹沢高志「宇宙船地球号とワールドゲーム」
6月30日 ブライアン・スモールショウ、金坂留美子「デザイン・サイエンス革命」
7月21日 金坂留美子「ナーガと水の人々」
ワークショップ
芹沢高志「テトラスクロール・ツアー」
日程:4月29日、5月3日〜6日、13日、27日、6月3日、10日、17日、24日、7月1日、8日、15日、22日、29日
高橋貴子「シナジェティック折紙」
日程:5月13日、6月9日、28日、7月8日、22日