「精神とランドスケープ」はP3が編集し、めるくまーる社の協力のもとに出版した翻訳シリーズです。そのタイトルが示すように、本シリーズは、人間の精神とそれを取り巻くランドスケープとのあいだに生じるゆらめくような相互作用が描かれた海外の秀作を集めています。内世界の旅と外世界の旅が溶け合ったこれらの作品は、単なる旅行記を越えた内容を持つものです。

人間の精神性は、その一人一人が置かれた環境・風土・歴史との緊密な相互関係のうちに練り上げられるものです。風景は絶え間なく「私」に語りかけ、それによって「私」のなかで何かが育まれていく。「私」はそんな環境に反応し、受け入れ、拒絶し、また働きかける。異国の土地の異なった風景に出会い、当惑し、感動する。あるいは日常の風景が、ある日いつもと違う光を放っているのに気づく。それは「私」の精神を探る内世界への旅の始まりでもあるのです。

各々の人間がそれぞれの方法を通して、自分を取り巻く空間と時間を生きる。
魂の彷徨----それが<精神とランドスケープ>のテーマです。


雪豹
ピーター・マシーセン 著
芹沢高志 訳
ナチュラリストで探検家でもあるピーター・マシーセンが、動物学者ジョージ・シャラーと共に幻の雪豹を求めてヒマラヤの奥地へ。逝った妻の思い出を胸にヒマラヤの峰々に挑んだ彼は一歩一歩、自分自身に、宇宙に、そしてチベット仏教の聖地クリスタル・マウンテンに近づいていく。


ウィダの総督
ブルース・チャトウィン 著
芹沢高志+芹沢真理子 訳
奴隷商人とその一族の出口なき栄光。光と色彩の渦の中、底知れぬ闇を秘めた西アフリカの大地に200年の歳月もひと夜の夢と化す。欧米紙誌に絶賛された「最も経済的(エコノミカル)な作家」ブルース・チャトウィン初の邦訳。
みずみずしい怒り、密度の高い追憶、ゴージャスな悲しみに茫然とさせられ、めまいを覚える。―――ニューヨーク・タイムズ


サタワル島へ、星の歌
ケネス・ブラウワー 著
芹沢真理子 訳
ミクロネシアの島々に伝わるタブーや神話、漁法や航海術は、大海原の時空が育んだ智慧の結晶。まばゆい陽光のもと、分別のある島の暮らしと伝統を維持するために爽やかな汗を流す三人のエコロジストたち。はるか水平線上には環境破壊の暗雲が立ち上がっています。


パタゴニア
ブルース・チャトウィン 著
芹沢真理子 訳
“人はなぜ動きつづけるのか”を終生のテーマに世界中を旅し、文章を書いたブルース・チャトウィン。本書は、紀行文のスタイルを革新したといわれる、彼の衝撃的なデビュー作です。祖母の家と食堂の棚、そこに置かれたパタゴニアで発見されたらしい一片の古生物の皮。これは誰にでもあるような微かに残る少年の頃の記憶。パタゴニアと彼を結ぶのはこのエピソードだけ。けれど彼は30代半ば過ぎに突然仕事を辞め、パタゴニアに向かう。理由があるようでないこの旅で、チャトウィンはヨーロッパからの移民たち、パタゴニア王国建設を夢みた男、無法者、亡命者、アナーキスト、航海者ら多くの人生に出会う。これらの人々との出会いの連続が示すのは、誰が定住者で誰が移動する者なのかを分けることが不可能な世界。チャトウィンの眼差しが捉えたそんな動的な世界像を、見事に具現化させた作品だといえます。


禅とオートバイ修理技術
ロバート・M・パーシグ 著
五十嵐美克+兒玉光弘 訳
喪失した記憶を奪還するため、過去へと通ずる独自の哲学ロードを突っ走る。電気ショック療法によって記憶を奪われてしまった元大学教師(著者)と、本来の父でない父に心を閉ざし精神の病に侵されつつある息子のオートバイの旅。
(前略)オートバイという名の現代のテクノロジーには、それを乗りまわすロマン的な魅力のほかに、それのメンテナンスを通して人間存在の根本形式を明らかにする秘密がかくされている。(中略)プラトンやアリストテレスからはじまって西欧哲学の王道を自由に往来し、さらに老子や仏陀そして禅思想にも説き及んで、ついに著者は哲学すなわち「クオリティ」の形而上学を提示している。(中略)そこにはらまれている思想の衝撃力は今日読んでもいささかも衰えをみせていない。山折哲雄


競馬場の錬金術
ビル・バリック 著
金坂留美子+勝股孝美 訳
競馬場のヴィヴィッドなドラマとイタリア・ルネッサンスへの憧憬が織りなす、再生を求める魂の旅。世界を均質化してゆく文明の片隅に野性を温存するサラブレットとそれを取り巻く特異な社会があった。この荒削りな聖地を巡礼することで著者は希望を取り戻します。


ボルネオの奥地へ
レドモンド・オハンロン
白根美保子訳
熱帯雨林の奥深く、博物学者と詩人とが繰り広げるユーモア溢れるジャングル探検記。ボルネオの原住民イバン族のガイド三人に導かれ、おっかなびっくりジャングルに足を踏み入れた迷コンビ。妖しげなチョウ、無数のヒル、優雅な鳥や珍獣、そして文明の波打ち際に立つ人々との出会いをオハンロンが軽妙洒脱に描き出す。


ティンカー・クリークのほとりで
アニ・ディラード 著
金坂留美子+くぼたのぞみ 訳
生命の奇怪な豊穣さ。そこに織りこまれた不条理な美。自然はなぜ、これほどまでに複雑なのか? 心を澄まし、ひたすら見つめる。すると、ヴァージニアの小川の光輝く水面に、私たちの素朴な認識をはるかに超えた地球という惑星の、美しくも残酷な風景が映し出されます。1975年ピューリッツァー賞受賞。


ソングライン
ブルース・チャトウィン著
芹沢真理子訳
「ソングライン」とは、アボリジニの先祖の足跡を辿るルート・マップであり、天地創造の神話であり、法の道であり、情報としての財産でもある。それを歌いつつさすらうことで、彼らは今も、先祖が創造した世界を再創造している。
「歌の道」とは何か?目には見えない声の通路だ。遠い叫びに惹かれるようにして、チャトウィンはその道を辿っていった。ここには美しい夢がある。夢を辿った足跡があり、人々との出会いがある。歩きながらヨーロッパの繊細な知性が、吹く風となり流れる雲となった。